虫の音と宇宙

夏の盛りというのに虫の音が聴こえる。私は夜は寝ない。虫の音を聴く。なぜなら、虫の音は宇宙そのものであるからだ。一切の音が消える夜は宇宙を眺める、宇宙を感じる唯一の時間帯である。あと何年生きるか分からぬのに一度だけの人生の時間の中で、宇宙との交流交信の時間を鼻提灯を作って寝ているのは勿体無い。ときおり、自分がいなくなる、自分が消える、さまざまな過去の嫌な出来事も一緒に消えていく。ある人は言う。睡眠は

一度死ぬようなもので、翌朝、生まれ変わった自分がいる。毎日死んで生き返る。と、瞑想も同じである。瞑想している間は全ての脳の活動を止めて死んでいるようなものである。ヨギの脳波を調べるとシータ波が出て呼吸数はずっと減り、心拍数も極端に減る。瞑想が睡眠の代用となる。ヨギは瞑想によって、ほとんど死んでいるのだ。瞑想時に呼吸に集中する。虫の音に集中すると呼吸と虫の音が一瞬止まって聴こえなくなる時がある。ヨギも

呼吸に集中しているうちに自分が消えてその場にはいなくなるに違いない。

まるで忍者のような話だが、やってみれば分かる。一端死んだ人間が物理的に生き返ることはないが、瞑想して死んだような経験をした人間は物理的には死んではないから、必ず生き返る。新しい生命を宇宙からもらうのである。リフレッシュした心身はエネルギーに溢れて新しい人生を歩むようなものである。ヨギの呼吸と心臓のようなものが虫の音なのである。