一万ボルト

サンフランシスコの道場に私の先輩がいて、シリコンバレーの世界的に有名な会社のエンジニアであったが、ある日仕事をしている最中に一万ボルトの電流が流れる電線に触れてしまったと言う。その事故の際の出来事が大変に面白く、興味深かったと言うのである。一万ボルトの電線に触れた瞬間、空中に跳ね飛ばされて、高い天井に頭が当たり、床にドッタリと落ちてしまった。脚の筋肉に一万ボルトの電流が流れると人間の身体を天井にまで飛び上げるチカラを電気は持っていると理解したと言う。彼はエンジニアであるので、ものごとを理性的に科学的に分析する。その昔、王向斉老師が挑戦者を天井や壁にまで吹っ飛ばしたチカラは氣のエネルギーが一万ボルトくらいの量があったのではないか?と言っていた。私は王向斉老師が、まるで映画のスクリーンに現れて武術家どうしの対決を見ているような気分になって、興奮しながらこの貴重な体験談を聞いていたものである。私の勁は一万ボルトには遠く及ばないが、時折、十年来の指導員が電気ショックを受けたような反応をしている時にはこの中国系アメリカ人の話を思い出す。