師母の拳

ある日、師母が拳を握りしめて、私に見せつけるようにして、何かを説明しようとしていたが、私は話しの内容については注意がいかずに師母の拳に見とれていた。驚いた、何と、拳のサイズが異常に大きいのだ。私の拳も大きいのであるが、私のよりも大きく見えた。そこで私が師母に言う。師母の拳は私のより大きいですよ、と言ったら、ニヤっとしてあとは黙っていた。当時、師母は八十を超えていた。八十のおばあさんで、私の拳より大きい拳を見たことはない。何故こんなに大きい拳を作れるのだろうとずっと考えて来たが、訓練しているうちに使うところに意識意念を置けば大きくなってくるということに、氣がいつも手や拳に向けられているので氣が拳に集まり、私には感覚的に異常に大きく見えた、と理解できるようになった。氣は我々のチカラを増大させるだけでなく、見た者の目には我々のサイズが大きく見えるようになるものである。柔道や剣道で、対した相手がとても大きく見えるなどということは、氣のチカラが外に出ていることを見ているだけのことなのだ。