伝統

どんな素晴らしい伝統もただ伝えられた伝統を守るだけでは伝統を守ることにはならない。伝統を受け継ぎ、新しい挑戦をして更に発展させて伝統に付け加えるものを創造したものが伝統に加えられて、それがまた伝統となって行くというプロセスが大事なのである。挑戦を怖れない。大胆かつ、繊細な心で挑戦する。私の挑戦は師母がしてもいなかった初回の者への勁空勁の使用である。この挑戦を三十年の間に何万回となく、試して、長い間は成功率が50%から70%であったが、最近になって、百パーセントを切っている。氣を百パーセント感じさせる技術を開発して氣を感じた後には誰にでも勁空勁を使うことができるようになっている。私の中で、静かな満足感とやっとここまで来たかという安堵感がフツフツと湧いてくる。一口に三十年と言っても、それは、とても長い期間であった。中国の武術の中でもその技術は最高峰のワザであって、勁空勁を会得するまで長い期間が必要で、しかも練習相手に勁空勁を使うことと初対面の人に使うことは全く別物である。相手の初対面の人が氣を切ってしまえば勁空勁を使えない。しかも受け身が出来ないと大ケガをする。とても危険な行為となる。さまざまな問題をクリアーして初対面の者に勁空勁を使う。氣の出力のコントロールをせねばならない。ただやみくもに氣を発して発勁すれば良いということではない。あらゆる危険性を排除して勁空勁を使う。伝統を受け継ぎ守ることは保守的な一面の傍ら、革新的に、新しい挑戦を試して、伝統に新局面を加えるには、タップリの伝統の基礎が必要で、その充分な基礎があって、出藍の誉れと言える。