師母外伝

師母の逸話もたくさんある。その中のいくつかは私がこの目で目撃している。その中のトップにくることは何と言っても、私が入門してしばらくして、道場全員が参加したデモンストレーションであろう。ドクター尤の逸話も含めてこのことを知っているのは日本人では私一人である。一時間ほどで、全員を勁空勁で投げた後に身の丈が二メートルを超えて体重に百キロはあると思われるバケモノのようなアメリカ人が急に現れて、こんな触らずに人を投げるなど言うことは信じない!オレにやってみろ!オレに出来たら信じてやる!と息まいている。その時に師母は烈火のように怒り、あまり得意ではない英語で大声で、「 Who You」と叫んだ。このオトコと師母のサイズはマンガに出てくるようなサイズの違いで、二人が睨み合っている。私は新参の道場生ではあったが、キチガイのこのオトコが師母に襲いかかったら、大変なことになる。私はそうっと後ろに回り、まさかの時にはオトコの股間を思い切り蹴り上げようと構えていた。アメリカにはこんな日本の常識では通用しない者がいる。私自身あるカラテの白人と武術談義をした時に相手が答えに困り、ピストルを突きつけられたこともある。結局、オトコが回りの空気を読んで、引っ込んだ為、何事も無く、済んだのではあるが、オトコを睨みつけて大声で叫んだその姿は男の武術家であっても、出来ることでは無かったろう。中国意拳の王向斉老師を師に持ち太極拳のヤンチェンフーに師事した師母の武術家としての、相手がどんなに巨大であっても、目から出る気迫を私は今でも忘れることは出来ない。あと二つほどあるのだが、今回はこのストーリーだけにしておこう。また次回に、