龍神の湯

高野山の近くに龍神温泉があり、三十年前に私はしょっちゅう訪れて温泉に入っては湯船のヘリに座って瞑想していた。その頃は日本人でも行くことを恐れるほどの山奥で外国人など誰もいない、秘境の温泉だった。今では、高野山は外国人ばかりで、日本人が少ないくらいである。今でも樹々が鬱蒼と茂り、瞑想するには最高の環境である。龍神温泉に入ってゆっくりと足の筋肉を暖めて揉んでいると脚の痛みが軽くなり、渓流のせせらぎを聞きながら瞑想すると三十年前のことを思い出す。あれから三十年経って、今の私は三十年前の私ではない。あれから進化した私が同じ場所にいる。千年前の空海さんが龍神温泉を開いたのは鋭い感性とこの温泉への閃きのせいであったろう。千年前のこの温泉に浸かり瞑想したかったものである。今とは比べられないほどに樹々は生い茂り、前人未踏のパワースポットであった。平坦な盆地を見つけて高野山と名付けた。密教の教えを受け継いだ空海さんも通氣であったに違いないだろうと私は思う。ダライ・ラマも通氣であると師母から聞いたことがある。密教の高僧はみんな通氣だ、と。日本の温泉文化に驚きを隠せないタヒチアンのフランス人は喜んでいた。