上虚下実

何回か触れたことのある Subject  であるが尤氏長寿養生功のおそらく最終目標と私には思われるので、また何回でも述べざるを得ない。東洋武術の身体の秘密であり、究極の人間が到達する理想の身体でもある。西洋のギリシャ彫刻のような筋肉タップリの逆三角形の身体は文字どうり上半身は大きく下半身は細く長い身体つきになってテレビなどにカッコ良く鍛えられた肉体美を誇るモデルが登場して一般人の憧れになっているけれども、尤氏長寿養生功には役に立たないシロモノである。東洋の武術では下半身を鍛えることが大事だ。上半身はあまり鍛えない。特に内家拳では、太極拳でもそうであるが、下半身がしっかりしていないと出来ないワザばかりである。勁空勁は下半身のチカラを上半身に伝えて発揮する、出来るワザである。上半身に筋肉があり過ぎると上半身のチカラに頼ってしまい、氣のチカラは半減して、失敗する。私の勁空勁は初歩の段階の時には、要領が分からずに全力で推して来る相手に対して上半身のチカラを入れた推し戻しをしていたので失敗が、多かった。が、師母との一対一の訓練によって、下半身に筋肉がついて、上虚下実の身体が出来ると同時に成功率は上がっていった。実験と観察を長い間続けて、ついに到着した東洋医学究極の理想の身体であった。明治の頃に日本を訪れた西洋人がこの身体の秘密を知らずに柔道によって投げられたのを想像することは難しくないだろう。柔道の金メダルを取った小柄な柔道家は握力が弱く、一般人がビックリするほど握力は無かった。下半身で相手の選手を空中に浮かした状態で、相手の襟首を引っ張るだけのチカラで相手の選手は畳に上に投げつけられたと言うことである。人間が仕事をする上で、さらに推し進めて、私は身体の使い方に西洋も東洋も違いはないと思うようになった。上半身のチカラが抜けている時に秀れたパフォーマンスが出来る。つまり、スイスの時計職人やヨーロッパの芸術品を作る職人は上半身のチカラは抜けた状態で仕事をしているはずである。日本の能や狂言の一流演者は皆が上虚下実の身体になって、舞台を歩いて進む時には、まるで雲に乗っているようにスーっと滑るようである。これは下半身が出来ていないと出来ることではない。相撲も上虚下実、野球のホームランバッターも上虚下実である。つまり、究極の一流アスリートや一流職人も含めて下半身のチカラを優しく軽い上半身に伝えて、仕事、例えばホームランを打つ瞬間は一気に筋肉を全て爆発させる。その前には、リラックスして下半身はどっしりとして、動かない。神経をボールに集中するには上半身にはチカラの入ってない最小の筋肉しかいらない。ただ腰と脚の筋肉の回転するチカラを上半身に伝えるだけである。相撲も同じである。横綱に近い番付になればなるほど、立ち会いの時には全くチカラは入っていない。が、相手をぶち負かす時には一気に下半身のチカラを上半身に伝えてあまり上半身の筋肉は使わない。技術とは下半身のチカラを上半身にチカラを伝える身体の使い方を指しているのではないだろうか?そう分析して見れば、本当は西洋も東洋も一流と言われるアスリートは上虚下実であろう。最近取り沙汰される体幹のトレーニングは下半身の強化を図る上虚下実の身体を作ることであったのだ。この上虚下実に気づいた私はその目で他の分野を見るようになっている。私の目には仕事をキッチリ出来る人、一流アスリートはみんな上虚下実で、下虚上実の身体の人は誰もいない。中国で古代遺跡に描かれた氣功の体操をしている人物画は下腹がデップリと大きな上虚下実の人物である。上虚下実こそが、一流となれる秘密の身体であったのだ。